脳炎・脳脊髄炎
<脳炎>encephalitis : 各種のウイルスによって脳炎が生じます。
1) 一次性脳炎 : ウイルスが脳組織に感染して、直接に侵襲して起こるもの。日本脳炎、単純ヘルペス
脳炎などがあります。
2) 二次性脳炎 : 他の臓器のウイルス感染後に、アレルギー性の機序が関与して起こる脳炎で、、
インフルエンザ麻疹、水痘、風疹などに合併する。異型の麻疹ウイルスによって起こる
亜急性硬化性全脳炎やパポバウイルス(*1)による進行性多巣性白質脳炎などがあります。
そのほかに、クールーやクロイツフェルド ヤコブ病などもこの範疇にはいります。
*1) papovavirus : papilloma、polyoma、vacuolating agent に由来する合成語。幼若なキッシ類
(とくにハムスター)に腫瘍原性があります。
<急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephlomyelitisADEM)>急性発症で単相性の経過の、
中枢神経(大脳小脳延髄脊髄脳幹)の散在性炎症性脱髄疾患で、診断には、最近の
感染症ワクチン接種歴の聴取が重要です。臨床症状に加えて、髄液検査とMRIが診断
有用です。感染性脳炎、中枢神経の総ての炎症性疾患が鑑別の対象になる。エビデンス
は不足しているが、ステロイドホルモンパルス療法が第1選択です。
ADEMは中枢神経の炎症性散在性白質病変で、中枢神経系ミエリン抗原に対する自己免疫
学的機序が推定されます。感染後やワクチン接種後短期間で発症することが多い。
予後は比較的よく、完全に回復する例が多いが、発症から極めて重篤で死亡する例や、
後遺症を残す例まある。早期診断と的確な治療開始が重要です。
<症状> ADEMは小児と弱年成人に多く、感染とワクチン接種の機会が多い為とされています。
発症率は、0.8人/10万人で、性差は無い。感染後もしくはワクチン接種後数日から4週間
に急に発症し、基本的には単相性の経過です。WHOはワクチン関連ADEMの潜伏期
は接種後最長3ヵ月とみなしています。<表>にADEMと関連が報告されている感染病原体
やワクチンを示す。
神経症状の出現に先行して、発熱や全身倦怠感など全身の炎症症状を伴うことが多い。
中枢神経系の発症は急激で、数日以内に症状がピークになり、通常はその後回復に向う。
中枢神経(上述)のいかなる部位も侵し、その部位に相当して髄膜刺激症状や中枢神経の
脱落または刺激症状が出現し、まれに末梢神経にも障害が及ぶ。どの部位が障害されても、
初期症状は、髄膜刺激症状(頭痛、悪心、嘔吐、項部硬直、発熱など)を認めやすい。大脳病変
としては、傾眠、昏睡、片麻痺、失語、痙攣、半盲その他の巣症状を呈する。視力低下(視神
経炎)、眼球運動障害などの脳神経症状や、眼振、小脳失調など小脳症状も出現する。脊髄
病変では、対麻痺、四肢麻痺、レベルのある感覚障害や膀胱・直腸障害を呈する。横断性
脊髄炎(脊髄横断障害)の形をとることが多いが、部分脊髄炎(Brown-Sequard syndrome、
後策病変など)を呈することもある。まれに末梢神経障害を認め、発症早期から呼吸障害を
示す重症例もある。
表 ADEMと関連が報告されている感染性病原体とワクチン
感染性病原体
麻疹ウイルス
流行性耳下腺炎ウイルス
インフルエンザウイルス
肝炎ウイルス
単純ヘルペスウイルス
水痘帯状疱疹ウイルス
風疹ウイルス
EB ウイルス
サイトメガロウイルス
HIV・AIDS えいす゛
コロナウイルス
コクサッキーウイルス
ヒトヘルペスウイルス6型
パラインフルエンザウイルス
アデノウイルス
デング熱ウイルス
ウェストナイル熱ウイルス
マイコプラズマ
クラミジア
レジオネラ
カンピロバクター
レプトスピラ
クリプトコッカス
溶血性連鎖球菌(溶連菌)
リケッチア
レプトスピラ
ボレリア
ワクチン
狂犬病ワクチン
麻疹ワクチン
日本脳炎ワクチン
インフルエンザワクチン
ジフテリアワクチン
百日咳ワクチン
破傷風ワクチン
流行性耳下腺炎ワクチン
B型肝炎ウイルスワクチン
ポリオワクチン
ダニ疥癬脳炎ワクチン     

<検査所見>髄液塗沫検査、培養やPCRなどで病原体は検出されない。MRI などの所見は専門的
ですから省略します。
<診断>ADEM の特徴は単発もしくは多発の中枢神経局所症状の出現です。異常神経所見が感染後
やワクチン接種後の早い時期に出現している場合、ADEMが疑われ、MRI の所見が診断に
役立ちます。中枢神経系の炎症疾患が総て鑑別の対象になる。感染性脳脊髄膜炎、中でも
急性ウイルス性脳脊髄膜炎が最も重要な鑑別疾患です。一般症状はADEMと共通ですが、
特に単純ヘルペスウイルス脳炎は重症でも治療可能ですから、早期に発見して抗ウイルス薬
の投与をする。異常行動、幻覚記憶障害失語などの症状が出易い。血清、髄液のウイルス
抗体価上昇やウイルス核酸のPCR法による検出で確認する。もっとも鑑別困難な疾患は、
多発性硬化症(MS)です。通常、MSではADEMに比べて全身の炎症所見に乏しく、症状の寛解
や再発があることが特徴となるが臨床症状やMRI 所見だけによる急性MSの初回発作とADEM
の鑑別は困難です。
Bickerstaff脳幹脳炎(→ギラン・バレー症候群に詳しい記述が有る)は、感染後発症で、病状
が単相で予後良好である点が類似する。かっては脳幹症状を呈するADEMの大きな範疇に
含まれていたであろうが、特徴的な症状やガングリオシド抗体の1つである抗GQ1b抗体が
特徴的マーカーになり区別されてきている。
中枢神経症状を呈する全身性エリテマトーデス:SLE、抗リン脂質抗体症候群、
神経サルコイドーシス、神経ベーチェット症候群、各種血管炎などの膠原病類縁疾患や
悪性腫瘍も鑑別が必要です。
<治療> ADEM は総ての検査で炎症所見を認めた場合、感染症が否定されるまでは、抗ウイルス薬
のaciclovir を使用し、ADEM と診断された場合は、methylprednisolone の大量パルス療法
を行い、パルス療法が効果ないときは、免疫グロブリン大量静脈注射を行い、
さらにこれでも効果が見られないときは、血漿交換療法(plasmapheresis)も行う。
ギラン・バレー症候群ウェルニッケ脳症
トップへ
トップへ
戻る
戻る